の体はもうボロボロだった。




毒だって抜け切れていないし

治癒術で回復したのは傷だけ、最早体力は限界だった。



それでも、気力だけで剣を握っていた。




それは何故か。








守りたいものがあったから。
















皆を操るシュヴァルツが許せなかった


操られたことでジェイやリフィル達が罪の意識に捕われるのが嫌だった


仲間同士で争うのを見たくなかった


これ以上………








誰も傷付いて欲しくなかった

















そう、を突き動かすのは“想い”のみ。


けれどそれが何倍にも膨らんで
今、彼を支えている。

















「皆!!!オレに今ある力をちょうだい!!!!」















ある者は杖に祈りを託し


「聖なる意志よ、我が仇なす敵を討て…ディバインセイバー!!」


ある者は赤い瞳を光らせ


「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け…サンダーブレード!!」


ある者は金色の髪をはためかせる


「蒼き地上の覇者よ 戦渦となりて厄を呑み込め…メイルシュトルーム!!」







「…愚かな力量の差を測れぬか…。……何…?




シュヴァルツが闇に魔術を吸収させようとすると、僅かに三人の力が闇を上回った。









ある者は二つの剣で仲間を守り


「天地空ことごとく制す!神裂閃光斬!!」


ある者は神速の刃を振りかざし


「気高き紅蓮の炎よ!燃え尽くせ!鳳凰天翔駆!!」


ある者はその両の拳に願いを握り締める


「行くぞっ!万物!神追撃!!」












「くっ…この力は……」



先程まで攻撃を全く通さなかった闇の防護壁が押されている。
ピキリ、と割れる音がした。










ある者は虹色の翼を広げ


「その御名の元、この穢れた魂に裁きの光を降らせ賜え…ジャッジメント!!」


ある者は銀のペンダントを輝かせ


「古より伝わりし浄化の炎…エンシェントノヴァ!!」


ある者は鈴の音を残す。


「…行きます!魔神…封殺劇!!」









「まさか…人の仔等にこれ程までの力が…」


シュヴァルツを守っていた闇が全て打ち砕かれた。

















「…終りだ、シュヴァルツ!!

 
紫電の使徒の剣よ、かの者に鉄槌を下せ!!雷牙鳴空剣!!!









の剣がシュヴァルツを斬り伏せる。

想いを込めた、皆の願いを託した剣を前に防ぐ術は無くシュヴァルツは地に伏した。









 

「ハア…ハア…。……やった」





カラン、との手から剣が落ちた。
ゆっくりと体が横に倒れる。





「おっと。、お疲れ様です」




その体を支えたのはジェイドだった。
返事の代わりには笑った。










「…まだ、終わってない」






リアラの呟きに全員が再び身を固くした。

シュヴァルツは倒れている。
けれど彼女の指がピクリと動いた。






「!!」






ゆっくりと起き上がったシュヴァルツは誰が見ても、重傷だとわかる。
四肢だって震えていて、立つのにだって時間がかかった。

なのに脅威は衰えない。





……ぬ…ゆる…ぬ……許さぬ!!!



抑揚の無い声だった彼女からは想像もつかないほどの激情を含んだ叫び。
肺を痛めたのだろう、はちきれんばかりの叫びと共に血飛沫が飛んだ。






「何故だっ…何故だ!!どうして此方へこない!!お前と引き換えに平和を望む世界なぞ捨ててしまえばいいではないか!!」



それは、今まで敵として戦っていた者が言う言葉だろうか。

聞き方によっては、まるでを守ろうとしているように聞こえる。





「…シュヴァルツ…貴女…」

「お前になら…解るだろう…?お前は…仔と引き換えに平和になった世界で生きたいのか?!」

「!!…でも…でもっそれが私達の…」

「使命…とでも言うのなら、滑稽だ。要は死ぬ為に生まれた命ではないか」

「違う…違うわっ!!私達は……私達は…」







リアラは俯いた。
上手く言葉が返せない。



自分は世界を守る為に存在している。
それは世界が危険だと言う事を示している。


なら世界を平和に導く“義務”がある。
平和な世界にいる“理由”がない。








「……わたしたちは……」



か細くなっていったリアラの声は、どんどんと風に消されていく。
最早、聞き取ることも出来ない。







そんな彼女の前に立つ背中があった。









「死ぬ為に生まれたなんて、勝手に決めるなよ」


ガイが言う。



やリアラは、私達と出会う為に生まれたんです」


コレットが言う。



「誰がこんな子どもだけに世界を任せるなんて言いました?我々は自分達で立つ術くらい身につけているんです」



ジェイドが言う。














「…綺麗事だ。人の手が及ぶ範囲などたかがしれている。結局は…っうう!!」






シュヴァルツの体が崩れ始める。
マナから生まれた者の末路だ。






は複雑な気分だった。

ジェイドの支えから離れ、ゆっくりとシュヴァルツに一歩近づいた。







「…シュヴァルツ。一つだけ、教えてくれ」

「……」







「お前は、自分の世界が無くなった時…悲しくなかったのか?」










の問いかけに、彼女の隠された瞳から一滴の涙が零れた。











「…守るものを失った時の闇は何よりも大きい。失うのなら、最初から得なければ良かった」











そして、彼女はマナに還った。
















「…っ」





は自分の力で立つ事さえ、もう出来なかった。
ジェイドに身を預けるように倒れこみ、気力だけで開けていた目も閉じられた。









さん!!」




急ぎ、ジェイが駆け寄った。

自分が傷つけてしまった負い目もあるのだろう、ひどく心配している。




近づいてみると、か細いが穏やかな呼吸が聞こえてくる。



大丈夫、は生きている。









「…良かった」

「急いで街に戻るぞ。このままじゃ体力が尽きちまう」




アッシュの言葉に反対する者は誰一人としていなかった。





























エヴァに戻った一行は街の入り口で数人が意識を失った。

それ程までに疲弊する戦いだったのだ。
まだ意識のある者が助けを呼びに走り、一時エヴァは混乱した。






















「…はまだ目覚めねえのか?」


「かなり疲労が溜まってるのもあるんだろうが…呼びかけても反応が無いと言うのが怖いな」



混乱が落ち着き、皆が次第に回復していったがだけがまだ目を覚まさなかった。
ピクリとも動かず、ただ呼吸だけを繰り返し眠り続ける。



スパーダとアッシュが様子見にやって来てみるも、は帰ってきた時と変わらない。







ベッドの傍に腰掛け、優しく見守る二人。





静かな空間を裂くように、激しい足音が部屋に近づいて来た。












は起きたか!!?」
さんは起きましたか!!?」







入ってきたのはセネルとジェイだった。





「なんだよ、てめーらやっと起きたのか?」
「そんなにが心配だったのか?だがは…」




「…やっぱり影響してるんだ」
「…クソ!!」






二人の様子がおかしい。
言ってることが噛み合わない。






「どうしたんだ?」
「ジェイもセネルも何言って…」






「僕があのダンジョンにいたのは、貴方達を追っていたからなんです」

「まさかこんなことになってるなんて…!!」



「だからなんだってんだよ?」













「世界樹が傷つけられたんです」